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インドネシアのLCGCとLCEVに見る新興国自動車行政のジレンマ  —新興国でハイブリッドやEVは普及するか?—

公開日: 2017年4月19日

インドネシアのLCGCとLCEVに見る新興国自動車行政のジレンマ

 —新興国でハイブリッドやEVは普及するか?—


 








   





<トヨタのハイブリッドカー『プリウス(日本仕様車)』



<大統領令No22>

インドネシアで3月2日、昨年来から議論されていたLCEV(Low Carbon Emission Vehicle)の推進についてようやく大統領令が出たようだ。JOKOWI大統領が署名した大統領令No22によると総合的な国家エネルギー計画(RUEN)の中で2025年に向けてハイブリットカーやEVの普及推進が重点ポイントとして書かれている。

 

もともとインドネシアのエネルギー政策は国有企業のプルタミナやそれにぶら下がる利権集団に翻弄されていて、国家としての総合的な戦略は遅れ遅れとなっていた。さらにエネルギーを使う側にいる自動車の行政に関しても関連するさまざまな省庁の思惑や利害が微妙に異なっていた。

今回こうした大統領令にこぎつけた背景には昨年秋に就任した『自称エネルギー問題の素人』を標榜するイグナシウス・ジョナン新エネルギー鉱物資源相の功績が大きい。

(蛇足ではあるが、ジョナン氏は前運輸相であり日本が中国に競り負けた『ジャカルタ〜バンドン高速鉄道案件』では日本を支持しておりその結果解任となっている。また、新エネルギー鉱物資源副大臣には二重国籍問題で解任されていたアルチャンドラ元エネルギー鉱物資源相が復帰。この辺りが仕事優先のJOKOWI政権の絶妙なところである。)

 

今回の大統領令はこうした自動車に関わる課題に対し一定のクリアな指針を示したわけであり意義のあるものであることは否めない。

 

<一定の効果があったLCGC政策>

もともとインドネシアの自動車行政は、自動車産業の振興という観点で工業省が自動車の国産化、外国企業の投資、自動車普及などの政策を70年代から脈々と立案・実施してきている。環境、エネルギー、運輸、財政、商務などの関連省庁とは工業省が調整を図るという形で進められてきた。

前ユドヨノ政権時代に出た LCGC(Low Cost Green Car)政策は『庶民が手に入る安い車。燃費が良くて環境にも優しい車。かつこれまでの国産化政策から大きく外れないガソリン・ディーゼル車。外国メーカーの投資や輸出も促進。』という良いことずくめかつ現実路線ともいうべきものであった。

 

事実、この LCGCはメーカーにとってハードルの高いものであったが、トヨタ、ダイハツ、ホンダ、スズキ、日産は政府の政策に真面目に応え、新規の製品開発や国産化追加投資を行い2013年よりLCGC車を市場投入してきた。

政府主導とはいえ、従来の新車よりも低く設定された価格、経済性、スペックなどその商品性はユーザーから評価されてきた。

結果、(新規客の吸引によって市場全体の底上げや輸出促進につながったとは言いがたいが…)LCGCはインドネシア自動車市場の27%にまで成長し自動車の小型化などの一定の経済効果や社会効果もあったと思われる。

 

<LCEV政策の明確化によって自動車政策はどう変わる>

こういった背景の中で今回明確化されたハイブリットやEVの普及方針。

国家の大きな指針として大変意義あるもので、自動車産業の担当官庁である工業省や自動車業界は表面的には協力方針を示している。しかしながら内心はこれまでのLCGC政策との関係調整に少し困惑しているとも思われる。

 

ハイブリットやEV は先進国を中心とする世界の大きなトレンドであり、お隣のマレーシアやタイではすでに環境対策車の普及政策を掲げている。また、最近のジャカルタなど大都市での渋滞は環境問題でもあり『環境対策車の普及』というスローガンには誰も反対できない。しかしながら、環境対策車には高コストが伴う。これまで進めてきた LCGC政策とは相容れない部分も多い。

さらに財務省筋からはこれまでLCGCに認めてきた10%のLuxury Taxの減税は環境車に減税適応の際には取りやめるといった発言も飛び出している。

 

そもそも、インドネシアの自動車の排気ガス規制はアセアンで最も遅れていて未だに EURO2レベル。それは自動車メーカーの責任ではなく、EORO4対応の燃料供給がいつまでたってもできない国有企業のプルタミナの責任であろう。それをさし置き、いきなり『ハイブリッドやEVを普及させろ』というのは(総論賛成ではあるが)工業省も業界も少し腹に落ちないのではないだろうか?

 

<LCGCはどうなる>

インドネシアの自動車産業は、ある意味アセアンの自動車産業先進国のタイの背中が見えてきた段階。これから内需の伸張に期待しながら、さらなる生産の拡大や国産化推進、部品産業の振興、自動車の普及促進を図らなければならない。アセアン域内の関税自由化という流れも横目で見ながら自動車産業の実力アップという難しい課題のために政府の舵取りは容易でない。タイが1トンピックアップトラックの生産・輸出拠点としての位置付けを強固にしている中、インドネシアはタイの補完としての生産基地と内需用生産拠点からようやく小排気量エンジンと小型車の生産拠点として位置付けられるところにまできている。

 

こうした状況下、従来のLCGC政策は自動車産業発展上、大変需要であり軌道修正はあるものの大きくは変更されないものと思われる。工業省やメーカーもしばらくはハイブリッドや環境車にはリップサービスとPR対応で応え現実路線で突き進むものと思われる。

 

しかしながら、環境行政やエネルギー行政は時として経済原則や現実論を無視した形で現れることが多く、今後の具体的なインドネシアの自動車政策動向には目が離せない。

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